日本と宗教
十河・アレックス
神道と仏教はよく日本の宗教だと言われている。しかし、「宗教」とは何だろうか。日本の場合は、その言葉と観念はどこからきたのだろうか。この発表では「宗教」という観念の発展を中心にしたいと思う。
まず宗教という言葉から始めよう。現代の辞書を引くと、次のような定義が出てくる。「神・仏などの超越的存在や、聖なるものにかかわる人間の営み。古代から現代に至るまで、世界各地に様々な形態のものがみられる。」（一）この定義は現代人にとって自然だろうが、もっと細かく見よう。以上の定義は４つの部分に分けられる。
1)神・仏・超越的存在。宗教の中心は人間よりもっと強い見えない力を持つ存在である。そして超越的なので、人間はこの力を直接に触ることはできず、儀式などほかの方法だけで経験する。
２）聖なるもの。聖なる、あるいは神聖というのを定義するのも難しい。「宗教の対象」という循環論法的な定義がよく見られるが、もっと詳しく定義しなければならなかったら、「日常の事柄や事物とは区別して扱われるべき特別の尊い評価をもっていること。」（二）それで、宗教は超越的なものだけではなく、日常経験から隔てられたものである。
3)人間の営み。宗教は人間の行為で、あるいは生活の部分の一つである。宗教の定義の中にはこの点は少し新しい発展である。二十年ぐらい前、西洋の辞書は営み・行為・生活の代わりに、信仰を強調した。欧米の伝統的な宗教モデルは信じることを中心にして、行うことを放置していた。けれども、最近の研究は儀式・修行などを強調しようとしており、以上の定義は研究者の考えの中に起こった観念的な変化を反映している。
４）古代から現代まで・・・世界各地。宗教は歴史上に各時代に現れ、そして各地であらゆる人間文化の部分になったものである。つまり、宗教は普遍的な観念だ。けれども、私はこの論に挑戦したい。宗教は本当に普遍的なものだろうか。次に以下問題を尋ねる。
英語の辞書にある「Religion」の定義を読むと、すぐ分かるのは日本語の辞書の定義は英語から一語一語翻訳されたものだということである。実は「宗教」という言葉は比較的新しく、明治時代に作られた言葉である。どこから来たのだろうか。アメリカの軍艦が来日した1853年、日本人は「religion」という英語の言葉に初めて直面した。アメリカと日本の条約、特に「日米和親条約」と「日米修好通商条約」といういわゆる「不平等条約」の中に、「religion」がよく出てきたが、その時代には「religion」に当たる日本語の言葉がなかった。適当な翻訳語を決定するのに20年かかり、決められたのは「宗教」という仏教語であった。
「宗教」は仏教の中で使われた言葉だったが、歴史上にすごく珍しかった。明治時代の前の意味は現代のと根本的に違っていた。漢字の通り、「宗教」はある仏教の宗派の教えであった。すなわち「真言宗の宗教」とか「日蓮宗の宗教」などと言えた。そのような場合は意味は「宗門の教え」であった。(三) つまり、仏教の宗派の教えを区別するための言葉として使われていた。けれども、特定の宗派の教えを分けることだけに当てはめた言葉だったので、仏教を「宗教」と呼ぶのは無意味であった。仏教は宗派ではないからだ。そして、日本人が16世紀に初めて知ったキリスト教でさえ「宗教」と呼ばれていなかった。当時、宗教は現代にみられる普遍的な文化的分類という意味をまだ持っていなかった。
「宗教」が仏教・神道・キリスト教・イスラム教などに分類したのは、明治新政府とその時代の翻訳者であった。アメリカとの条約でこの新しい使い方が初めて使われた。条約が求める条件の一つは宗教の自由で、アメリカの軍艦は脅迫で日本の政府を条約に従わせた。その結果はキリスト教の布教者が日本に自由に入れるようになった。さらに、この条約から西洋の文化に発展した宗教の観念も輸入された。(四)「宗教」の定義は広げられ、全世界に現れる文化的現象として扱われるようになった。
結局は、以上に定義した「宗教」は日本の土着の観念ではない。むしろ、この観念は西洋の文化で作られたもので、19世紀に日本に伝えられた。日本語で書いている学者はこれを大体決め込んでいるが、英語で書いている欧米人はよくこれを理解していないと思う。研究者が神道や仏教などの古代の伝統を宗教と呼んだら、それは少し誤った描写である。今日こうした伝統は一般的に宗教と呼ばれているので、古代の現象でも仕方がないかもしれない。けれども、宗教を「古代から現代に至るまで、世界各地に」現れるものと呼ぶのは、本当に正しくないだろう。宗教は西洋の観念で、日本で欧米と交わる前に現れなかったので、普遍的な分類ではないと言える。
以上の話をまとめると、宗教とは神などの超越的・神聖な存在を中心する文化的伝統だと言えるが、その観念的分類は西洋の文化に発展されて、19世紀に日本に伝われたものである。仏教・神道などは西洋の宗教に表面的に類似するが、日本が欧米の文化に交わる前にその伝統が宗教と呼ばれなかった。つまり、今日よく言われる「日本の宗教」というのは欧米の帝国主義の結果である。
引用：
(一) “宗教”. 大辞泉. 東京: 小学館,
2012.
(二) “神聖”. 大辞泉. 東京: 小学館,
2012.
(三) “宗教”. 日本国語大辞典. 東京: 小学館, 2002.
(四) Josephson, Jason
Anānda. The invention of religion in
Japan. Chicago: University of Chicago Press, 2012.
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ReplyDeleteこんにちは、TAの中西です。プロジェクト読ませていただきました。
ReplyDelete「宗教」の定義を通して日本における「宗教」の概念について深く洞察した、大変興味深い内容でした。
全体の感想としては、「宗教」は キリスト教やイスラム教などと分類し布教する為に、西欧から持ち込まれ、便宜的に使われた概念であるということが、とても面白かったです。はじめ「宗教」は仏教の宗派として使われていた、ということも驚きでした。「宗教」という概念を考えるだけでも、いかに日本の仕組み、言葉、日本人の考え方が、西欧に影響されてきたかがわかりますね。人々が普遍的なものと考えているものが実は人為的に作られたものかもしれない、という問いかけがとても鋭いなと思いました。すごく難しいテーマではあると思いますが、とてもわかりやすかったです。
ふと、このプロジェクトを読ませていただいて、個人的に思ったことは、昔の日本人は「仏教」や「神道」をどのように捉えていたのでしょうか？「神道」は日本にもともとあった「宗教」ではありますが、自然の中にたくさん神がいる、という日本人の生活に根ざしたもので、仏教やキリスト教のように釈迦やキリストという絶対的な存在の教えに基づいて信仰する「宗教」とは少し異なるように思いました。仏教もインドから中国、朝鮮を通じて日本に伝来したので、何か決まった一つの（聖なる）対象を信仰する、という考え方自体が元々日本にはなかった、のかもしれません。（宗教に対しても、心の寄りどころとして何かにお祈りしよう、みたいな感じでしょうか。。？）
「宗教」という概念が元々日本にはなかったことが、もしかしたら、今の、宗教に寛容（疎い？）と言われている日本人の宗教観と何らかの関係があるかもしれませんね。
もし研究内容とそれてしまっていたらすみません。
それでは引き続き頑張って下さい！
TA 中西